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幽世へと至る塔・塔魔目録

 


 少女二人は、知らぬ世界にいた。
 知らぬ空気、知らぬ景色、知らぬ地面。

 何もかもがわからぬなか、歩みを進める。

 霧の中を歩んでいくのは慣れていた。
 親友をどうしたいか、どうするべきか。
 片方の少女は常に霧に囚われていたから。




 少女たちは知らぬ世界で絆を得る。
 失ったものもあるが、それは消えたのではなく、元の場所へ帰るための橋。
 そして、この世界へ至るきっかけとなった橋。

 不安はあるが、この状況を楽しく思わないこともない。

 この世界の経験を、楽しく話せる相手が待っていることが嬉しかった。

 普通なら笑い飛ばされるであろう話も、あの子ならちゃんと聞いてくれる。
 目を輝かせて聞いてくれることを確信していたから。




 この世界における、使役するものと使役されるものの違いを目にする。

 式姫の使役には信頼関係が必要だが、この世界の「魔神」はどこか違う。
 使役者を信頼している者もいるが、逆に何かに縛られ従っている者もいる。

 式姫はどうだろうか。義務感から使役されている子はいないのか。
 戻ったら少し、気をつけてみようと彼女は思った。




 共に轡を並べて戦う陰陽師と、塔から指示を出す候補者。

 もどかしいと思うこともあるだろう。
 直に戦えないことが、痛みを共有できないことが。

 それを「安全」とする人もいるだろうが、私はこの候補者は少し違うのではないか、
 と思っている。

 魔神との距離が近い。

 ……だが、その理由に「他の何者か」を感じる。
 この候補者と本来の主従関係にあるであろう、何かを。




 「ねーねー、澄姫。この姿って、あなた達の世界の戦装束なんだよね?」
 「そうね……と言ってもこんな風に装備するのは、私の世界でもかなり昔のこと。
  普通は儀礼として装束が残っていたり、と言ったくらいね」
 「実際に着込むのは、それこそ陰陽師と式姫さんたちくらいでしょうか」

 「ふーん……そうなんだ。その「しきひめ?」と澄姫達は着てるんだね
  ……だからアスモデウスも変わった装備をしている、ってことかな」
 「そ、その話は……そうだけど、ちょっと、まだ納得できな……ぐうぅ……」
 (まさか装備したままで、しかももう持ち帰れないとは驚きでしたね……)



毛倡妓
 このあやかしと私は直接相対してはいない。
 戦わずとも済む相手であるし、そもそも『私が原因』ではないから。

 それがここに現れたのは、文が原因か、それとも別の何かか。
 ただ、文が言うには存在そのものが「軽く」なっているらしい。
 こうして数多く表れるものでは無かった、と。

 「最古の塔」は塔自体に多くの情報(言霊と似た感じらしい)が収められているとのこと。
 似たような事例を拾って、数が多くなったのだろうか。

 だとすれば悲劇は、人が居たとされる場所には数多くあるものなのだろう。
 それこそ、あやかしの存在とは関係なく。




 私も文も知らないあやかしが出るとは思わなかった。
 れんは『塔界では時間が意味を成しません。もしかすれば、ですが今後あなた方が
 相対するのかもしれませんね』と言っていた。

 存在するかもしれない先のことなど、言っていることはわからないが……
 その未来では、私とあの子はどうなっているのか。

 いや、あの子はどうなっているのか、心配でならない。

 『助けて澄姫~』と気軽に呼んでくれるならいいのだけど。
 ……あの子、吹っ切れたときの勢いが大きいから、そのまま間違った道に進まないか不安ね。

 (……こっそり後ろから見てしまいましたけど、『お二人ともですよ!』と
  突っ込みたいですね……)




 記憶を探るとされるあやかし。
 私は相対したことがないが、あの子が相対することがあれば、
 何を探られるのだろうか。

 ……自分が出てこなかったら少し寂しいな、と思いつつ、邪だと頭を振る。

 自分が出てこない訳がない、心配すべきは、どこまで深く掘られるかだ。

 そう言えば、この候補者の魔神から記憶は探れなかったのだろうか。
 不気味に笑った後、何も記憶を再現していなかった。

 それは、魔神の記憶なのか、それとも――




 正体不明とされるあやかし。
 姿も何もかも文献で異なるが、私が知っている姿でこの世界に現れた。

 その能力まで同じとは思いたくないが、どこまで再現されているかは戦えないのでわからない。
 ……だが、その姿を見ているとどうしても抑えきれない思いがある。

 鵺にまつわる話は後で聞いた。
 そして私は――鵺もそうだが、あの子にあんな感情をぶつけたことを、
 未だに少し許せないでいる。

 (……こっそり後ろから見てしまいましたけど、『澄姫さんもですよ!』と
  突っ込みたいですね……)




 「澄姫さん、何を書いているんですか?」
 「ちょ、ちょっと! 覗かないでよね! 帰ったときに何かわかるように、
  ちょっとした記録をつけているだけなんだから!」
 「ああ、なるほど。だからいつもと違った手帖を使っていたんですね」

 「……」

 「な、なんで……詩集のことも知ってるのよ!」
 「詩集……? あれは詩集だったんですね、てっきり――」
 「ああ、もういい。いいわよ! 忘れなさい!」

 (この世界で記入した何か。は異物ではなく、この世界で造られた物。
  元の世界には持ち帰れませんが……二人を見ていると、何か面白そうなので黙っておきましょう)




 「これが私の、異世界での姿の一つ、かあ……威容もあるし恰好もいいけれど、
  なんだか釈然としないなあ……」
 「これでもまだ本来の姿ではないみたいですよ。式でも帝でもない、その先――
  いつか私も目にすることがあるんでしょうか?」
 「それは私にはわからないなあ……けど、力を磨いていけば、いつか姿を現す。
  そんな気がするよ」




 「おやフェネクス。どうしました。本など持って」
 「あっ、これ? この間帰っていった子達の片方。澄姫って子が落としたノートみたいなものを見たら、
  面白いことが書いてあったから、まとめてみたんだ。元の世界に戻る前にね」
 「なるほど……あなたが知的なことに興味を持つのもおかしいことではありませんでしたね」

 (恋の詩集……かぁ。私たち魔神にはよくわからないヒトの感情。知っておいて損はないよね!
  他の魔神にも教えたり……そうだ! もしここの主が王になったら、出版とかも頼んじゃおうかな!)




最後はやめてさしあげろ


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